東京ふうが65号(令和3年春号)

韓国俳句話あれこれ 10

本郷民男

▲ 韓の夏空

 1926年の『朝鮮俳句一万集』の、夏の句を天文から見ましょう。一つ家は開け放ちなり夏の月   京城 鬼笑
すやすやと兒は縁に寝て夏の月       幽星
藻塩焚く煙の末や夏の月   鎮南浦 紫葉

韓国の家には、あえて壁を作らない部屋があります。サランバンという広い書斎に、大きな寝台を置いた古宅もありました。李白の、「牀前看月光疑是地上霜」の境地です。マルという広い縁側を持つ家も多く、そこでも月を楽しめます。
藻塩焚くは、海水を浸み込ませた藻を焼いて、塩を作ることです。万葉集の巻六に、淡路島の松帆浦で藻塩を焼くという長歌があります。鎮南浦(チンナンボ)は北朝鮮南西部の南浦市で、近くに徳洞塩田(トクドンヨムジョン)がありました。


▲ 石割、トゥルマギ、オリ

石を割る赤旗高し雲の峰   京城 螺炎
薫風や周衣着けて渡守   原州 楚川
夕立や小溝に騒ぐ家鴨の子   京城紫水
韓国では石の利用が盛んで、石の鍋や釜、石仏や建築材まで。石は割れやすい目があるので、割ることができます。目に沿って一列にタガネで矢穴をあけ、そこに矢という楔を入れ、石工達が一斉に矢を叩けば、矢穴に従って石が割れます。住んでいた慶州は仏国寺花崗岩の産地で、矢穴を見ました。作者の螺炎は八話で紹介した民俗学者です。
周衣は、トゥルマギに漢字を充てたもので、読みはトゥルマギでしょう。外出の時に着る外套のようなものです。既製品はなく、注文して作る厚手の長い服で、帯を結びます。一旦着たら、外出先では脱がない冬服です。私も一着作って未だ持っています。車の運転にも不便なほどで、初夏に船を操るなんて、考えられません。
鴨もアヒルもオリと言います。各地にオリ料理店があり、一羽で三人くらいが適当です。油を逃がす廃油口がある、専用の鉄板で焼きます。オリをたっぷり食べた後、ご飯に廃油口から出た油をかけ、醤油を少したらすと絶品です。だからアヒルが多いのです。

(つづきは本誌をご覧ください。)